本記事では、人工知能(AI)が、画像ファイルや音声ファイル等を、ユーザーの指示で作成した場合、その生成物は著作権侵害の対象に成り得るかの、個人的な法律解釈の記事、或いは法律に関する考察を記させていただきます。
そもそも生成AIとはなにか
こちらの記事を読んでいらっしゃる方のなかには、生成AIというものに親しくない方もいらっしゃるかもしれません。私はAIに関しては専門家でありますので、簡単に説明いたしますと、生成AIとは、「ユーザーからの指示により、なにかしらの創作物を独自のアルゴリズムで生成する人工知能」のことを指します。
イラスト作成AIを用いて例を挙げると、我々ユーザー側は「コマンド」または「プロンプト」と呼ばれる、単語を入力します。その後、クライアント側のAIがそれを解釈し、そのプロンプトに則った画像を出力するという流れになります。実際に使った画面を見て理解を深めていきたいと思います。
今回はイラスト生成用のAIとして「AIピクターズ」様(以下敬称略)のサービスを利用させていただきました。
まず以下のようにプロンプトを記入します。AIピクターズが日本語に対応しているかは分かりませんが、多くのイラスト生成AIは英語での記入の方が精度が高くなります。
最初の方のプロンプトは、初期設定で予め入力されています。あとは自分で書き足すのですが、見て分かる通り、相当簡単です。英語がわからない・単語が思いつかない等はあるかもしれませんが、実際にペンを握って絵を描くよりかは遥かに容易であると言えます。私が追加で入力した「black hair(黒髪)」「long hair(長髪)」「smile(笑顔)」「wearing red glasses(赤いメガネを掛けている)」のプロンプトに着目してください。
次に生成物です。
いかがでしょうか。完全に私の入力した要素がすべて入っています。所要時間は10秒くらいでした。私はイラストレーターではないですが、もしそうだったらとしたら恐怖していると思います。というか私は人工知能の専門家なのでこれはこれで恐怖しています。
生成AIの作成物に著作権は発生するのか
本題に戻ります。問いに完結に述べるのであれば、「AIが描いたイラストには著作権は発生しません」
日本の著作権法では、著作物というのは「思想または感情の創作的な表現」と定義されています。つまり、①「思想または感情」が、②「創作的に表現」されている、という2つの要件を満たしたものが「著作物」ということになるわけです。
思想または感情というものを持ち合わせている必要がある、とのことですが、残念ながら、現在の法律では「AIに思想や感情がある」という扱いはされていません。
だから、AIが自律的・自動的に作った作品については、「思想または感情」という著作物の要件を満たさないので、著作物ではない。つまり、著作権も発生しないということになります。これが現在の通説的な見解です。日本国政府も同じ見解に立っています。
生成AIのイラストは完全に著作権が自分に帰属するのか
前のトピックにて、生成AIの作成物には著作権が発生しないことが分かりました。
しかし、それを使うのは誰でしょうか?いったい何者が生成AIを使うのでしょうか?
答えは簡単です。「人間」が利用します。
人間には意志も思想も感情も存在しています。
AIとの関わり方というのは多種多様です。AIに限らず、人間は作品を作る際に、パソコンやペンタブ、そこに搭載されている自動補正ツールなどを補助的に使う場合もあるでしょう。
そういうものを、「機械が作ったもの」と扱うのは妥当ではない。ですから、AIが創作のプロセスに関与していたとしても、人間がAIを「道具」として使っている場合には、人間の思想または感情による創作的な表現ということで著作権が発生すると考えられています。納得のいく解釈だと思います。あくまでこれらは「道具」・「ツール」なのです。
人間の手による作業がメインで、AIをサブ的に使う場合は著作権が発生するということですね。では、AIに描いてもらった絵を背景にしてクリエイターが人物を描いて作品を作る、といった場合には、AIが出力した背景も含めてクリエイターに著作権が発生するということになるでしょうか。
答えを言うと、なります。ただしその際には、人間による作業の内容が問題になります。政府の報告書などでは「著作権が発生するのは、人間による創作的な寄与がある場合」と書かれています。つまり、この場合も人間の創作的な寄与が行われているかが問題になります。
例えば、AIがイラストの背景を描いてくれたとして、その背景だけを取り出して著作権が発生しているかというと難しいかもしれません。しかし、その背景にクリエイターがキャラクターのイラストやその他の装飾を付け加えていった場合、そのキャラクターのイラストはもちろんのこと、人物の配置や組み合わせ方には人間の創作性が含まれていると考えられます。とすると、その作品を全体として見れば、その作品はクリエイターの著作物である、という評価はできるようになると思います。
つまり、作品の表現に、どれだけ人間が関わっているかが大事ということです。逆に、AIがアウトプットした作品をちょっと修正するとか整えるとか、その程度の加工作業しか人間がやっていない場合は厳しいというイメージになるかと思われます。加工の程度が弱いと、その人の著作物じゃないと言った具合です。
プロンプトを書くのは創作活動なのか
先程の例を見て分かっていただけた通り、生成AIを用いてイラストを作成するのは非常に簡単です。呪文を書けば10秒で出来上がります。全体の時間は1分もかかっていないでしょう。
プロンプトの記述についても着目してみましょう。あれも短いものから長いものまで様々ですが、ひとつの「テキスト作品」といえなくもないです。
というかこれがもう否定されたら私達エンジニアやプログラマーはもう残りの人生で食べられるのはティッシュかサランラップくらいしか残されていなさそうです。
閑話休題。プロンプトといってもいろんな長さ、種類、書き方があると思いますが、まず著作権が発生しない典型例としては「単語」「短い文章」「ありふれた表現」が挙げられます。なので、1〜2単語のプロンプトが著作権で保護されることはないと考えていいと思います。もしそれが著作権で保護されたら、私達の口から言葉は発せられなくなることでしょう。
ふつうのテキストの場合、どれくらいの長さになると著作権が発生するのか。過去の裁判例では「5・7・5」の17文字に著作物性が認められたケースがあるらしいです。プロンプトもこれくらいの単語数になると、著作権が発生する可能性がでてくると思います。他の裁判例では、古文単語の語呂合わせにも著作物性が認められていますので、工夫されたプロンプトによっては、より少ない単語数でもいいのかもしれません。
また、最近のプロンプトは、「いい画像を作るためのプロンプトの書き方・テクニック」が確立されてきています。
所謂「呪文集」とかが、実際にネット上で公開されています。プロンプトは単なる名詞や形容詞の羅列のように見えますが、実際のところは単語の配列を変えるだけで、出力が変わってきます。言葉の並び方にも意味があります。これは少し専門的な話になるので、当ブログの本記事にていつか書きたいと思います。
法学に話を戻しますが、著作権法には、編集著作物という種類の著作物があります。これは「素材の選択、配列に創作性が認められる著作物」です。例えば、写真集です。個々の写真そのものはもちろん著作物ですが、写真集自体にも著作権が発生します。なぜなら、どの写真をどこにどう置くか、どの順番で並べるかといったところに、個性と表現が現れるからです。
なので、単語においても、どの単語をどの順番に並べるかというところには、その作業をした人の個性が出てくる。プロンプトもその延長で考えることができるのではないでしょうか。
普通の文章とは違いますが、「独自の考え方のもとで単語を組み合わせて、それが3〜4行になっている」となると、著作権は発生している可能性はあると思います。その場合、何も考えずにただコピーアンドペーストをするのはよろしくないかと考えています。これは法学的にもそうなのでしょうが、コンピュータ科学的にも、悪意のあるマルウェアやバックドアが仕掛けられている場合もあるため、助長したくはないです。
プロンプトは結構な数が公開されています。そこに著作権が生まれるとなると、こうして公開されているプロンプトを私たちが使う場合には注意が必要になってくる、というのが今の法律家の方々のトピックみたいですが、我々コンピュータ科学側の人間からすると、遥か以前からソースコードやアプリケーション、ひいてはOSまでオープンソースで提供されてきた世界なので、そこの考え方がやはり違うのかなという印象を受けます。「プロンプトを作成して公開している人に対して、その努力に無償で乗り切ってしまって良いのか」という意見が散見されますが、我々の業界では珍しいことでもないので、そこは慣例として受け入れてしまっても良いのかなと個人的には解釈しています。
しかしながら、以前のエンジニアやプログラマーが大半を占めていたインターネットと違い、今や全世界老若男女問わず多くの人々がネットに接続しています。彼らにはそれまでの知識がないため、迂闊に手を出して良い場面とそうでない時の区別がついていないところが散発的に見受けられます。この層に対して救いの手を差し伸べることこそが重要であると私は考えます。「人が法を守るのではなく、法が人を守る」のですから。
それ以前の話へ
と、ここまで生成AIの生成物に対して著作権侵害になるか否かの考察を重ねてきましたが、それ以前の話として、今使われている生成AIはすべて「学習済み」です。当然ですよね。勉強してない子がいきなり非ユークリッド幾何学空間上の偏微分ベクトル方程式とかやりだしたら腰を抜かします。
前提として、生成AIはすべて何らかの画像データを読み込んで学習をさせてあります。それらの多くは無償のイラストや風景画を学習していると思われますが、無償で公開されているからといって、著作権フリーということにはなりません。WebやSNS上で,作品が無料で閲覧可能だとしても、これを第三者が自由に利用することが許可されているわけではありません。
例えば、写真家が作品をウェブ上に公開し、無断でそれを自身のサムネイルなどに利用した結果、高額な損害賠償金を支払わなければならなかったケースが存在します。また、美術館で絵画を鑑賞し、それを自身の記憶としてインプットした場合、著作権侵害には当たりませんが、その記憶を元に瓜二つの絵を制作し、自らが創作したかのように公にすのは問題があります。つまり、記憶としての取り込み自体は問題ありませんが、それが具体的な表現として現れ、元の作品と酷似している場合には,著作権侵害になってしまうかもしれません。インターネット上にある画像の使用については著作者の許可が必要になるのですが、実は「AIが学習するために使う」というのも,著作権侵害になる可能性があるのです。
学習段階での著作権侵害について
著作権侵害の法的要件を検討する際には、まず作品が著作物として保護される要件を前提に、①類似性,、②依拠性を考慮する必要があります。
① 類似性
言葉通りに「既存の著作物と同一または類似している」ことを指します。
具体的には、単なるアイディアや表現方法ではなく、同一または著しく類似した創作性が認められ、かつそれが一般的なものではなく、明確な独自の特徴を備えていることが重要なポイントです。
② 依拠性
「既存の著作物に接して,それを自己の作品の中に用いること」を依拠性といいます。
ただし、既存の著作物を知らずに偶然に類似した表現が生まれた場合には,依拠性は成立しません。
画像生成AIの場合は、数々のデータを元に学習を行い、既存の著作物を認識し、それを元に新たな画像を生成しているので、生成された画像には依拠性が認められると言えます。
つまり、著作権侵害を判断する際には、学習段階での既存著作物の利用と、生成された作品における類似性と依拠性の有無という、学習段階と生成後の段階の両方を考慮する必要があります。
これらの要素によって、著作権侵害が成立するかどうかが判断されることになるのです。
著作権侵害についての法的な問題については文化庁から資料が公開されていますので、こちらも参照してください。
ただ、やはりこの分野は急速的に発達した科学であり、現行の法が追いついてこれていません。上記のようなことを述べる法律家もいれば、AIの学習段階での著作物の利用は「基本的に問題ない」と考えられている方々もいます。
彼らの主張の根拠として、著作権法第30条の4によると、情報解析用には著作物を利用できるという旨の内容が示されています。
しかし、前述のとおり、ここで創作されたイラストがこの情報解析用として利用された著作物に類似している場合、著作権侵害となる可能性があるため、AIの創作物の利用の前には自分でチェックすることが大切です。
AIの創作物を自分のものとして主張できるか
著作権は、創作と同時に自動的に発生する権利であり、取得のために手続きを必要としません。しかし、AIの創作物に関しては、原則として著作権は認められません。AIの創作物を自分が創作したものであるとして自分の著作権を主張したらどうなるでしょうか。
結論、現時点では正確に判断する術はないのでまかり通ってしまいます。
著作権が認められる、人による創作物とそうではないAIの創作物かを外観だけで判別することは困難です。AIの利用の有無や程度について判断する方法について不透明なため、現在検討されています。
もちろん、この行為を助長しているわけではありません。虚偽の権利主張はやめましょう。
AIが作成したものを保護するには
AIが作成したイラストは基本的に著作権が存在しません。つまり、誰でも利用可能であるということです。しかしAIの創作物に対して、著作権以外の権利を付与して保護する方法が存在します。
【商標権による保護】
AIの創作物を自社の商品やサービスに使用したい場合は、商標登録を行うことで保護することが出来ます。例えばAIが作成したロゴを商標登録することで、他社は指定した商品やサービスの範囲で、同一または類似のロゴを使用できなくなります。
【不正競争防止法による保護】
AIの創作物を、自社の商品や営業を表示するものとして使用する場合は、不正競争防止法によって保護される場合があると考えられます。
まとめ
生成AIに関する訴訟問題について、ケースによって類似性と依拠性のどちらか、もしくはどちらも争点となる可能性があります。
また、「AIが生成した画像の著作物」についても、その取り扱いが問題となるでしょう。
訴訟においては生成された作品がAIによるものなのか、それとも人間の著作物なのかという点が論争の的となることがあります。
こちらも判断が難しいのですが、AIの使用が純粋に「道具」としての利用なのかどうかが重要なポイントになります。
同じようにAIを使用して何らかの創作物を制作する場合も、AIの機能自体よりも、利用者の「創作意図」または「創作的寄与」があったかどうか、というところで著作物になるかどうかが判断されます。単にAIに任せたのではなく、AIを利用した方の創作性がどこまで認められるかというところがポイントになるのです。
たとえAIを使ったとしても、その方の創作意図があり、創作者として関与したといえる場合、AIの生成物も著作物として認められる可能性があります。
AI技術の進展を考えると、AIと著作権の関係性は今後もまだまだ変わっていくことでしょう。
どんなにAIが発達したとしても、人間残されたクリエイティビティを守るために、時代に合わせた法制度を柔軟に整備していく必要があると考えます。
まとめのまとめ
「「「結局何が言いたかったの???」」」
・AIが主体的に創出したものに関しては著作権が発生しないよ。
・AIを補助的に利用して人間が主体となって創出したものは著作権が発生するよ。
・AIを利用した創出物であっても著作権侵害をしてしまう場合があるよ。
・基本的にAIの機械学習のために著作物を利用しても問題ないよ。
・AIの創作物でも著作権以外の権利で保護できるよ。
・現行法では、曖昧な部分が多いわね。
最後に
今回はたくさん法律のことを学びました。
現行の法ではやはり急激に進化した科学に対して適応する速さが足りていません。まぁぽいぽい変えられても困るのでそこはトレードオフだと割り切りましょう。
さて、これまでずっと法学の話をしましたが、結局何が言いたかったのかと言うと
私はこれからも作成AIで作ったかわいい女の子を使い続けます!!!(法律が変わらない限り)
本記事は、今までサイトアイコンやアイキャッチに使ってきたAIの生成した画像を今後もずっと使っていって良いのかという疑問から始まりました。そして調べて妥当性が確認できたら固定ページで決して法は犯しておりませんという証明をしようという魂胆でした。
ただ、それ以上に今回は学びが多かったです。専門外のことではありますが、話題の火種は専門の人工知能のトピックだったため、楽しく勉強することが出来ました。ブログ始めて良かったとちょっと思いました。
私は人工知能の専門家で、人工知能をこの世の誰よりも愛していますが、人工知能は「道具(ツール)」だと割り切っています。良いことに使えば成功に近づくし、悪いことに用いれば待っているのは破滅だと考えています。
なのでこれからも人工知能の研究により一層邁進して、人の社会を豊かに楽しく幸せにする道具を開発していきたいと思います。
以下に参考とさせていただいたウェブサイトを記載しております。より詳しく知りたい方はぜひご覧になってください。
最後までご覧いただきありがとうございました。
それでは、ごきげんよう。